宇宙規模で考えれば、地球は陸の孤島である。
いや、陸どころか海もある。
山もある。
コンビニもある。
深夜にポテチを買いに行ける。
だが、宇宙から見ればそんなものは誤差だ。
地球は、宇宙という大海原にぽつんと浮かぶ青い密室。
逃げ場なし。
外部犯なし。
宇宙人の関与は、いったん番組後半まで引っ張る。
つまり。
この地球で起きた殺人事件。
犯人はまだ、この星のどこかにいる。
私は迷探偵するめ
そして私は、迷探偵するめ。
推理力はそこそこ。
勘は悪い。
酒には弱くない。
証拠品のつまみ食い歴あり。
だが安心してほしい。
事件は必ず迷宮入りさせる。
私はホワイトボードの前に立ち、キリッと眼鏡を押し上げた。
「まず、容疑者を絞ります」
助手が息をのむ。
「まさか……もうそこまで?」
私は赤ペンを持ち、世界地図に大きく丸をつけた。
「容疑者は……地球人全員です」
助手が黙った。
私は続けた。
「約80億人。いや、企画の見栄えを考えて120億人ということにしましょう」
「増やさないでください」
「大丈夫です。ミステリは容疑者が多いほど盛り上がります」
「多すぎるんですよ」
迷推理の始まり
しかし、私は迷探偵である。
細かいことにこだわっていては、真実の方から逃げていく。
私はさらに推理を進めた。
「犯人は、人類の中にいる」
「まあ、そうですね」
「もしくは人類以外」
「急に広げないでください」
「だが待ってください。犯人が人類とは限らない。動物、AI、概念、税金、月曜日……」
「月曜日は殺意ありますけど、犯人ではないです」
「では月曜日は重要参考日としてマークします」
私はホワイトボードに大きく書いた。
重要参考日:月曜日
捜査は着実に迷走していた。
テレビ局への企画書
そこで私は、テレビ局に企画書を出した。
緊急特番
地球密室殺人事件
犯人を当てようスペシャル!
宇宙規模で見れば地球は完全密室!
犯人はこの星のどこかにいる!
見事犯人を当てた方の中から抽選で一名様に、豪華プレゼント!
賞品はなんと――
酸素1年分!
※ただし各自で吸っていただきます。
※地球在住者はすでに利用中です。
※転売禁止。
番組は大反響だった。
視聴者から続々と推理が届いた。
「犯人はヤス」
「犯人は現場に戻る」
「犯人はこの中にいる」
「この中ってどの中ですか?」
「地球です」
「広い」
中には鋭い意見もあった。
「全人類が容疑者なら、探偵も容疑者では?」
私はその投稿を見て、静かにスマホを伏せた。
見なかったことにした。
名探偵は真実を暴く。
迷探偵は都合の悪い真実を一旦冷蔵庫に入れる。
犯人はだいたい全員
私は深くうなずいた。
「つまり犯人は……私以外の誰かです」
「それ、推理じゃなくて願望です」
「願望も強く念じれば状況証拠になります」
「なりません」
私はさらに名推理を披露した。
「犯人には動機があります」
「まあ、ありますね」
「手段もあります」
「たぶん」
「そして機会もあります」
「はい」
「つまり犯人は、動機と手段と機会を持つ者……」
私は振り返り、力強く叫んだ。
「だいたい全員です!」
助手が頭を抱えた。
ここまで絞れた。
人類全体から、だいたい全員へ。
これは大きな進展である。
なぜなら言い方が変わったからだ。
壮大なる聞き込み調査
捜査会議は続く。
「先生、次はどうしますか?」
「聞き込みです」
「誰に?」
「全人類に」
「何年かかるんですか」
「まずは一人目からです」
私は街へ出た。
通行人に声をかける。
「すみません。あなた、犯人ですか?」
「違います」
「そうですか。ご協力ありがとうございました」
一人消えた。
残り、約119億9999万9999人。
私は空を見上げた。
事件解決は近い。
いや、遠い。
かなり遠い。
宇宙より遠い。
事件の核心(がない)
その時、私は気づいた。
そもそも事件の詳細を聞いていない。
誰が殺されたのか。
いつ殺されたのか。
どこで殺されたのか。
凶器は何か。
目撃者はいるのか。
何も知らない。
だが、迷探偵するめは慌てない。
情報がないなら、雰囲気で押せばいい。
私は再びカメラの前に立ち、重々しく告げた。
「この事件、非常に難解です」
「情報がないだけですよね」
「しかし、ひとつだけ確かなことがあります」
「なんですか?」
私はグラスを掲げた。
「地球は密室。人生は迷宮。犯人は未定」
そして笑顔で締めた。
「まぁええか、乾杯」
その瞬間、番組テロップが流れた。
次回!
迷探偵するめ、ついに容疑者を119億人まで絞る!
なお、増える可能性あり!
事件はまだ解決していない。
だが番組は続く。
なぜなら、犯人より先にスポンサーが見つかったからである。



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